不倫のお話

ワールドネバーランド エルネア王国の二次創作。無断転載禁止。不倫の話です、R18。苦手な方はスルーして下さい。

明けない夜

夜4刻まで、浴場から出る事が出来なかった。


普段とは違ったリウさんを、まざまざとロニーに見せつけられた気がした。

そして、あんな破廉恥な行為をする彼女に驚いた。


それに興奮してしまった自分も居た。


ふらふらと帰宅し、自慰行為をした後、2回嘔吐した。


天使? どこが?


俺が見ていたものは、とっくに堕ちてしまっていたというのか。


あの微笑みも、優しさも、出会った頃から変わらないと、幻想を抱いていたというのか。


それなら、炎で焼かれても、仕方あるまい。


 

 ………



混沌とした夜明けを迎えた。

一睡も出来なかった。


今日は、鎧は着ない。


鞄からある物を取り出すと、それ以外何も持たずに家を出た。


 真っ直ぐ、農場Aに向かった。

目的の人物はそこに居た。


「あ、おはよう! 農場こっちだっけ?どうしたの?」

「……」

「顔色悪いよ、大丈夫?」

「……」


左手で彼女の肘を掴み、グッとこちらへ引き寄せた。

右手で黒い塊を握りしめる。


「!」



浴場で

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予想通り、バシアス浴場には誰も居なかった。

深夜になると、広い空間を独り占め出来るのだ。


浴槽に入り、ため息をつく。

身も心もさっぱりしそうだ。

余計な汚れた思考は、消さなくては。



 身体を拭いて、帰り支度を終えた時、眼鏡を浴槽の淵に置いてきたことに気が付いた。


服装はそのまま、裸足で浴槽まで取りに向かう。


すると、浴場のドアが開く音がした。


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 「ほら、誰も居ないよ」

「ロニー、そんなこと言ったって」

「たまには、ね…?」


聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟に柱の裏に隠れた。

自らの激しい動悸を感じる。


(今日は運が良い日じゃなかったのか!?)


 ロニーは近衛だ、気配を消さなくては。


二人が水着に着替えている間に、鞄から退魔の香水をそっと取り出す。


魔物からの忌避効果と共に、自らの気配を消す効果もあり、一定時間はこれでやり過ごせるだろう。


香水を全身に振りかけると、柱の陰に腰を下ろした。


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 「子供達が居ると、ベタベタできる機会が少ないからね」

「こんな深夜においてきちゃって、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、ぐっすり寝てたから。それより…」

「んッ…っはぁ、はぁ」

「こういう場所だと、興奮するね」

「ん…ねぇ、キスまででしょ、どこ触っ」

「リウは、どこまでしたい?」

「や…っ、ぁ」

「可愛い…」


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(とんでもない所に出くわしてしまった…)


冷たい汗と暑い汗が同時に流れ、自分の体温がよく分からない。


天使のようなリウさん。

みんなのアイドル的存在であるロニー。


二人がこんな露出狂じみた行為を行っている。


無言の乾いた笑いが、止まらない。



夏の出来事

夏が始まった。

暑くて、外に出るのが億劫になる。


「おはようアンガス」

「お早うリウさん」

「ご機嫌だね。なにかいい事でもあったの?」

「ああ、大した内容ではないけれどね」

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…前言撤回。



「これから探索?」

「ああ。夏になるとペピッサが大量発生するんだ」

「もうそんな時期ね…」

「リウさんは昼から評議会?」

「うん。ペピの種足りなくなっちゃったから、探索一緒に行こうかな…。いい?」

「もちろん」

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何だ、今日はとても運が良い。


やはり暑かろうと寒かろうと、外には出るべきだ。


午前中いっぱい、リウさんと探索をした。

久しぶりに長時間一緒に居ることができた。

この時間は、誰にも譲れない。


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夫婦になると、一緒に探索することもたくさんあるのだろうな。

朝晩を共にして、食卓を囲んで。

そう思うと、心臓が鈍く痛んだ。


想えば想うほど虚しい。


こんなに近くにいるのに。


手を伸ばせば届く距離が、こんなにも遠いのか。


 「…眠れん」

くだらないことを考えていたら、目が冴えてしまった。


窓を開けると、夏の夜の匂いがした。

枯葉のような形の虫が、鳴き声を響かせている。


「…風呂でも行くか」


夜2刻なら誰も居るまい。


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自覚

「…埃、髪についてる」

「えっ、あ、ありがと…」


危うく素面でも過ちを犯しそうになり、すんでのところで抑えた。


…次こそは大切にしなければ。

儚い天使のような微笑みを、護らなくては。


「入り用の時はいつでも言ってくれ」

「う、うん」

「じゃあまた」


 ………



アンガスが帰った。


壁に背中をもたれ、その場に座り込んだ。


「…ダメ」


動けなかったのは、拒否出来ない理由があったから?

あらぬ期待を一瞬抱いてしまったことに、自分自身で驚愕している。


「ロニーが、好きなのに」


悔しくて涙が流れた。


 


手を

「随分と書物が多かったな。ただ埃を拭いて整理するだけで、ここまでかかるとは」

「お疲れ様。私の仕事なのに、手伝ってくれてありがとね」

「いや、いいんだ。元はと言えば俺が悪いのだから」


本の片付けを一通り終えた。


これで、彼女と定期に会う機会はなくなる。


 ふと、リウさんと目が合った。


「……」

「……」


手が、自然と延びた。


 

本の片付けなどと言いくるめて、下心が無かった訳ではない。

反省はしているが、会いたいのもまた事実だ。

そう、揺るぎない事実なのだ。


一度でも触れてしまったら。

もう止めることができない。


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「まるで炎だな」


恋い焦がれるとはよく言ったものだ。


燻っていた小さな火の粉は、飛散し、燃え移り、やがて山火事にまで至る。

雨でも消し止めることはできまい。

尽きることなく燃焼し続け、その後には何も残らない。

あらゆる物を呑み込むが如く、焼き尽くす。


……


 それから暫く、リウさんと邸宅で顔を合わせるようになった。


もうあんなことは二度としないが、会えるだけで心が満たされた。


我儘でしかないのは分かっているが、何年と耐えてきたのだ。

会うくらいは…という思いが自分の何処かにあったのだろう。



「はぁ…」

結局掃除もそこそこに、逃げるように帰宅して、紅茶を淹れた。

「何も訊けなかったし断れなかった…」


掴まれた手首が熱を帯びたようにジンとする。

初めての感覚に身震いした。


ロニー以外の男性にキスされたことなんてなかった。しかもあんなに強引に。


アンガスのことは嫌いじゃない。

好きというよりは憧れに近かった。

自分のような人には勿体無いと思っていたから、恋愛対象ですらなかった。


今更、何だというのだろう。


「…リウ?」

「…! ロニー、帰ってたの?」

「もう夜2刻だよ。明日は麦の収穫日だから、今日はもう寝た方がいいんじゃないかな」

「あ…そうだね」

「体調悪いの?」

「ううん、大丈夫」


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「…リウ、無理しないでね。嫌なことがあったら言って」

「あ…うん、ありがとう」


言える内容ならよかったのに。


「おやすみ」


寝る前のキスが、記憶まで塗り替えてくれたらいいのに。


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