決意
「リウが話してくれたから、あたしも話すよ。
アッカーの方のホセさんとね、昔色々あってね」
「えええっ!?」
ホセ・イバン・アッカー。
農場管理会の中で知らない者はいない。
農場代表戦でいつも争う相手であり、毎年候補者に選ばれている。
「リウやあたしが代表やるまでは、あの人がずっと代表やってたんだよ。
あたしが就職したての頃はまだラダ小屋もちゃんとしてなくてね。干し草の管理なんかも自分達でやってた。
夜に雨が降ると、二人ですっ飛んでいったさ」
「ずっと一緒に仕事してきたんだ、そりゃ仲良くなってね。奥さんのコレットさんが亡くなって、それで…。
あたしもグレアムには悪かったと思ってるよ。まぁ思ってても罪は変わらないんだけどね」
「バレてないの?」
「今のところ何も言われてないけどね、分からない」
「ま、あたしは割り切る性格だからね。
あの時はホセさんも辛くてね。
慰めというかなんというか…。まぁ、今は何もないけど」
「そっか…」
「生きたいように生きな。
好きになっちゃったんだしさ、もう仕方ないよ。あたしはいつでもあんたの味方だよ」
「…うん」
彼女は、分かっているのだ。
私が引き返せない位置まで来ていることに。
どちらも捨てられないことに。
「ありがとう、カピトリーナ」
「ま、最悪みんなダメになっても、あたしの家くればいいよ」
ははっと豪快に笑う彼女に、つられて笑みがこぼれた。
カピトリーナと別れ、カルネ皇帝の橋の下に向かった。
川の畔に座り込み目を閉じると、草いきれの中に、川のせせらぎが聞こえてきた。
自分の理想像は、貞淑な良い奥さんだった。
夫と子供と幸せな家庭を築いて、仕事もしながら、温かい毎日を過ごす。
欲しかった未来は全て揃っていた。
愛するロニーと子供達。
仕事も順調で、今年は評議会のトップにまで上り詰めた。
なのに、憧れていた人に突然キスをされ、いつの間にか恋に堕ちてしまった。
いつか止めれば許されると思っていたが、ブレーキは手元になかった。
止めることも、割り切ることも出来ない。
それでも。
ロニーが好きで。
アンガスが好きで。
苦しいままでいいから、二人を好きでいたい。
河原の小石を一つ手に取り、握りしめた。
震えそうな体を、誤魔化すために。