熱
「はぁ…」
結局掃除もそこそこに、逃げるように帰宅して、紅茶を淹れた。
「何も訊けなかったし断れなかった…」
掴まれた手首が熱を帯びたようにジンとする。
初めての感覚に身震いした。
ロニー以外の男性にキスされたことなんてなかった。しかもあんなに強引に。
アンガスのことは嫌いじゃない。
好きというよりは憧れに近かった。
自分のような人には勿体無いと思っていたから、恋愛対象ですらなかった。
今更、何だというのだろう。
「…リウ?」
「…! ロニー、帰ってたの?」
「もう夜2刻だよ。明日は麦の収穫日だから、今日はもう寝た方がいいんじゃないかな」
「あ…そうだね」
「体調悪いの?」
「ううん、大丈夫」
「…リウ、無理しないでね。嫌なことがあったら言って」
「あ…うん、ありがとう」
言える内容ならよかったのに。
「おやすみ」
寝る前のキスが、記憶まで塗り替えてくれたらいいのに。