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不倫のお話

ワールドネバーランド エルネア王国の二次創作。無断転載禁止。不倫の話です、R18。苦手な方はスルーして下さい。

来訪者


コンコン、とノックする音が響いた。

気づけば炎は消えていて、瞼を挙げればカーテン越しに日が差していた。

「リウ、今入っていい?」
「あ、はーい」
ベッドの上で身を起こした。
ドアがガチャリと開き、ひょこっと顔を覗かせたのはカピトリーナだった。
彼女の後ろからロニーが現れ、カーテンを開けていった。
白い光が部屋の中を照らし、もうお昼なのだと気付いた。

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「ごめんね、疲れてるところ。出産祝い持ってきちゃった」
「そんな、いいのに」
「いいのいいの。あたしの孫の時もくれたんだから」
異国から取り寄せたであろう果物がいっぱいに盛られたかごが、ベッドサイドのミニテーブルに置かれた。
「わあ、ありがとう」

「ルカにはミルクあげておいたよ。あとはごゆっくり」
「ロニー、邪魔しちゃって悪いねぇ」
「そんなことないよ。マリンの時もスノウの時も、ありがとう」
ロニーはイム茶とチョコクッキーをテーブルの上に置くと、踵を返した。
部屋のドアがパタンと音を立てた。


カピトリーナは椅子に腰掛け、クッキーを頬張った。
「名前、ルカっていうんだね。ありゃあブヴァール家の青い瞳だよ」
「…やっぱりそうだよね」

見る人が見れば分かってしまうのだろうか。不安はいくら考えても尽きなかった。

「ま、悩んでも仕方ないさ。それより彼には…」
「うん、伝えてある。びっくりするほど笑顔だったよ」
「何だかアイツの笑顔って…ちょっと気持ち悪いね」
カピトリーナが怪訝な顔をして言うものだから、可笑しくて笑ってしまった。

すると、再びノック音が聞こえた。
部屋に入ってきたのは渦中の人物だった。

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「おっと、噂をすればだね」
「カピトリーナも居たのか。ん、何のことだ?」
低い声が鼓膜に心地良く響いた。
ルカを見てくれたんだろうか。
可愛い男の子だよね、アンガスに似てるよ、と言いたい気持ちをぐっとこらえた。

「別に、何でもないさ」
「ふむ。そうだ、リウさん。出産祝いなんだが…」
「あ…ありがとう」
手渡された物は、スノーマンの形を模したベビー服だった。
出産祝いという名目の、父から息子への贈り物。
きっと悩んで買ってきたのだろう。仕立て屋さんの前で顎に手を当てる彼が容易に想像できた。
真っ白でふわふわの生地が、ルカによく似合いそうだった。

出産の度に、周りの人達が何かしらのお祝いを持ってきてくれていた。
特にカピトリーナとアンガスは三回とも欠かさなかった。
「二人とも、いつもありがとう」

アンガスと目が合った。
群青色が胸を熱くさせた。


ドアがまた開き、トレイにイム茶を載せたロニーが現れた。

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「アンガス、いつもすまないな」
「ロレンテ家とブヴァール家の仲だ、当然だろう。ああ、長居は出来ないんだ、淹れてもらったのに悪いな」
「何かあるのか?」
「これから公務で、デヴォン国まで行かなくてはならないんだ」
「デヴォン国…!」

デヴォン国といえば、遥か昔から親交の深い農業国だ。
この国の農業は、そこから伝わったとされている。

カピトリーナはイム茶を啜りながら口を開いた。
「王子サマも大変だねぇ。行き帰りの行程だけで相当かかるんじゃない?」
「そうだな。帰って来る頃には丸一年経っていそうだよ」
アンガスは苦笑を浮かべた。

「そうか…だから来年の近衛トーナメントに、お前の名前が無かったのか」
「ああ。アンテルムは子供がまだ小さいし、ティムは来年魔銃導師でな。急遽俺が行くことになったんだ。はは、独り身は使い放題だからな」
「むしろ大役じゃないか。国民としては有難い限りだよ、本当に」
ロニーが目を細めると、アンガスもつられて笑みをこぼした。
「そう言ってもらえるだけで、行く気が湧いてくるよ」
「気をつけて行ってこいよ」

会話が流れていくものの、内心動揺していたせいで、話にうまく加わる事が出来なかった。
来年一年間、自分ひとりでやっていけるのだろうか。
誰も味方がいない中で、ルカを守っていけるんだろうか。

カピトリーナがこちらを向いたのが視界に映った。
顔を上げると、彼女は片目を瞑ってにっと笑った。

そうか、ひとりじゃなかった。

ありがとう、と声を出さずに唇を動かした。


「そろそろ俺は行くかな」
「あたしも帰って夕飯の準備しなきゃ」
アンガスとカピトリーナが帰り支度を始めた。

「二人共、本当にありがとね」

ベッド上で動けない代わりに、ロニーが玄関先まで送ってくれるようだ。

静寂が部屋に満ちた時、ぽろりと涙が落ちた。


………


夕焼けの始まり、黄金色の空が広がる。
樹々も石畳も染められ、冷えた街全体が輝くようだった。
この国に、必ず帰ってこなくては。
そう思いながら、横を歩くカピトリーナに話しかけた。

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「カピトリーナ、貴女は知っているんだろう」
「えっ」

「あのリウさんだ。抱えきれなくて貴女に相談することくらい、目に見えている」
「…そうかい。ご推察の通りだよ」
足を止めると、彼女もまた歩みを緩めた。
「俺が居ない間にもし何かあった場合、二人を頼む」

他人に頭を下げたのは久々のことだった。

「これ以上リウを泣かしたら、ただじゃおかないよ。約束しな」
「…分かっている」

今までも、リウさんは独りで何度も泣いていたのだろう。
抱え込んで我慢する性格を、カピトリーナもまたよく理解している。

「しっかしさ、未練たらたらだよねアンタもさ。そんなに想ってるのに、告白しなかったの?」
「いや、告白しようとした日に来なかったんだ。…そうだ、カピトリーナ。あの日何があったか知らないか? 192年の春の半ば」
「さぁね…そんな昔のこと、覚えちゃいないさ。あの子が約束を破ったり忘れたりするなんて、滅多になさそうだけどね」
「そうか…」

滅多になくても、可能性はゼロではないのだろう。
昔のことを考えても仕方ない、今は公務を早く果たすことを考えよう。

カピトリーナに礼を言うと、足早に帰路についた。

ルカは可愛かった。自分の子かと思うと、抱く手が震えた。
目と唇が自分によく似ていた。
帰ってきたら、どんな顔をして会おうか。

「早くも親バカ、だな…」

口元が緩まないか、それだけが心配だ。