不倫のお話

ワールドネバーランド エルネア王国の二次創作。無断転載禁止。不倫の話です、R18。苦手な方はスルーして下さい。

日記と記憶

帰宅すると、陽はもう沈みかけていた。

家の者は誰もいなかった。


西日に照らされた本棚に、手を伸ばした。

手に取った本は、赤い装丁に銀色の文字が並んでおり、レシピ帳と書いてあった。


レシピ帳とは名ばかりだ。

魔力を込めると、銀色のインクは消え、日記帳、と金色の文字が浮かんだ。


何年も昔、魔力で動く自動人形が流行っていた頃、よく用いられた手法だった。

術者が許可する者しか見ることの出来ないインク。


この国では廃れてしまった技術だが、祖国にはまだそれが残っており、使い続けてきた。


「アンガスと出会った頃…」

5年も前のページを開くと、どこかで嗅いだことのある香りがした。


『絵本の王子様みたいな人と出会った。花束を貰った。』


懐かしくて、思わず笑みが溢れた。

ページをぱらぱらとめくった。


『今日はアンガスさんとハーブ摘みをした。横顔も素敵だった。』


なんだ、日記にも書いてあるじゃない、と納得した。

忘れっぽくなるにはまだ早い年齢だと思っていたけれど。


『ロニーという人に出会った。紹介されてきたんだって。ロニーも素敵な人。』


『明日はアンガスさんと幸運の塔で約束。』


その後のページは、1ページ分真っ白だった。


「どういうこと…」


いや、後でまとめて書こうと思ってそのまま放置していたのだろう。

次のページをめくった。




『ロニーが好き。』



何で、どうして。

疑問符が頭の中にいくつも浮かんだ。


ページをめくったり戻したりしても、何も変わらない。

書いた跡を辿ろうとしても、何もない。


思い出そうとしても、そこだけ灰になってしまったように思い出せない。


「リウ」


突然声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。

振り向くと、手燭に火を灯したロニーがいた。

ゆらゆらと影が揺れている。


「ロ、ロニー。いるなら教えてよ…」

「リウこそ。真っ暗な部屋から気配がしたから、俺だってびっくりしたんだ」

「あ、ごめん…」


慌てて本を閉じ、棚に戻した。


「暗い所で読むと、目悪くなっちゃうよ」

「そうだね、気をつける」


当時の自分は何がしたかったんだろう。

何が起こったんだろう。


思い出せないことに不満を抱えながら、夕食の支度に取り掛かった。