浴場で
予想通り、バシアス浴場には誰も居なかった。
深夜になると、広い空間を独り占め出来るのだ。
浴槽に入り、ため息をつく。
身も心もさっぱりしそうだ。
余計な汚れた思考は、消さなくては。
身体を拭いて、帰り支度を終えた時、眼鏡を浴槽の淵に置いてきたことに気が付いた。
服装はそのまま、裸足で浴槽まで取りに向かう。
すると、浴場のドアが開く音がした。
「ほら、誰も居ないよ」
「ロニー、そんなこと言ったって」
「たまには、ね…?」
聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟に柱の裏に隠れた。
自らの激しい動悸を感じる。
(今日は運が良い日じゃなかったのか!?)
ロニーは近衛だ、気配を消さなくては。
二人が水着に着替えている間に、鞄から退魔の香水をそっと取り出す。
魔物からの忌避効果と共に、自らの気配を消す効果もあり、一定時間はこれでやり過ごせるだろう。
香水を全身に振りかけると、柱の陰に腰を下ろした。
「子供達が居ると、ベタベタできる機会が少ないからね」
「こんな深夜においてきちゃって、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、ぐっすり寝てたから。それより…」
「んッ…っはぁ、はぁ」
「こういう場所だと、興奮するね」
「ん…ねぇ、キスまででしょ、どこ触っ」
「リウは、どこまでしたい?」
「や…っ、ぁ」
「可愛い…」
(とんでもない所に出くわしてしまった…)
冷たい汗と暑い汗が同時に流れ、自分の体温がよく分からない。
天使のようなリウさん。
みんなのアイドル的存在であるロニー。
二人がこんな露出狂じみた行為を行っている。
無言の乾いた笑いが、止まらない。