不倫のお話

ワールドネバーランド エルネア王国の二次創作。無断転載禁止。不倫の話です、R18。苦手な方はスルーして下さい。

冬の始まり

紅葉した木々は葉を落とし、一段と冷える季節が始まった。

暖炉に焚べられた薪はパチパチと火の粉を舞い上げた。


「そういえばこんな季節だったな。リウさんがこの国に来たのも」

「春直前とはいえ、寒かったよね」


腕枕をされ、背中から抱きしめられるような格好でベッドに潜り込んでいた。

アンガスの温もりが、服越しに伝わってきた。


「お腹の子は大丈夫か?」

「うん、たまに動いてて元気だよ」

「無事生まれるといいな」


首すじに柔らかい感触が触れ、キスをされているのだと分かった。


「ん…」

彼の方を向くと、唇を塞がれた。

蕩けるような口づけに、身体が欲するのを、何とか抑えた。


「こんな風になるなんて、出会った時は夢にも思ってなかったよ」

唇を離し、慌てて話を戻した。


アンガスは首を傾げた。


「告白しようと思っていたら、いつの間にかロニーと付き合っていたからな」

「えっ」

「あの時、リウさんが来なかったから俺は諦めたんだ」


「あの時? いつのこと?」

「覚えていないのか? 春の半ば、幸運の塔に来る約束をしただろう」


「約束? そもそも、私達そんなに会っていた?」

「よく釣りやハーブ摘みをしていただろう」

「そ、そうだっけ」


そんな頻度でーー?


どんなに記憶を辿っても、花束を貰ったあの日しか思い出せなかった。


「実はあの時、旅人服を持っていたんだ。リウさんが幸運の塔に来てくれたら、この国を出るつもりでいた」

「そうだったんだ…」


彼は独りで立ち尽くし、自分を待っていたのだろうか。


あの時自分は何をしていたのだろう。


記憶すら曖昧な自分が申し訳なくなった。

「ごめんなさい」

「謝ることはない。リウさんが今幸せなら、それでいいんだ。過去を責めてはいないから」


お腹を気遣ってか、軽く抱きしめられた。耳に吐息がかかる。

「手で、しても良いか」

顔が熱くなり、無言で頷いた。


するりと手が股下に伸びてきて、下着の上を前後に辿った。

与えられる刺激は緩やかでもどかしく、彼の袖を掴んだ。


「欲しそうな目をしているな」

「だって、んっ」


妊娠してからずっと、そういった行為はしてこなかったのだ。

擦られるだけで声が洩れそうになる。


「あっ、ふ…」

「産まれて落ち着いたら、また沢山しよう」

下着の中に手が入ってきた。

良い所を、指先が何度も往復した。集中的に擦られ、身体がびくびくと震える。


「ん…ぁっ…!」

快感が、弾けた。

一つ大きく震えると、彼の袖とシーツを強く握りしめた。


 




日記と記憶

帰宅すると、陽はもう沈みかけていた。

家の者は誰もいなかった。


西日に照らされた本棚に、手を伸ばした。

手に取った本は、赤い装丁に銀色の文字が並んでおり、レシピ帳と書いてあった。


レシピ帳とは名ばかりだ。

魔力を込めると、銀色のインクは消え、日記帳、と金色の文字が浮かんだ。


何年も昔、魔力で動く自動人形が流行っていた頃、よく用いられた手法だった。

術者が許可する者しか見ることの出来ないインク。


この国では廃れてしまった技術だが、祖国にはまだそれが残っており、使い続けてきた。


「アンガスと出会った頃…」

5年も前のページを開くと、どこかで嗅いだことのある香りがした。


『絵本の王子様みたいな人と出会った。花束を貰った。』


懐かしくて、思わず笑みが溢れた。

ページをぱらぱらとめくった。


『今日はアンガスさんとハーブ摘みをした。横顔も素敵だった。』


なんだ、日記にも書いてあるじゃない、と納得した。

忘れっぽくなるにはまだ早い年齢だと思っていたけれど。


『ロニーという人に出会った。紹介されてきたんだって。ロニーも素敵な人。』


『明日はアンガスさんと幸運の塔で約束。』


その後のページは、1ページ分真っ白だった。


「どういうこと…」


いや、後でまとめて書こうと思ってそのまま放置していたのだろう。

次のページをめくった。




『ロニーが好き。』



何で、どうして。

疑問符が頭の中にいくつも浮かんだ。


ページをめくったり戻したりしても、何も変わらない。

書いた跡を辿ろうとしても、何もない。


思い出そうとしても、そこだけ灰になってしまったように思い出せない。


「リウ」


突然声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。

振り向くと、手燭に火を灯したロニーがいた。

ゆらゆらと影が揺れている。


「ロ、ロニー。いるなら教えてよ…」

「リウこそ。真っ暗な部屋から気配がしたから、俺だってびっくりしたんだ」

「あ、ごめん…」


慌てて本を閉じ、棚に戻した。


「暗い所で読むと、目悪くなっちゃうよ」

「そうだね、気をつける」


当時の自分は何がしたかったんだろう。

何が起こったんだろう。


思い出せないことに不満を抱えながら、夕食の支度に取り掛かった。